23日(土)の21時頃(現地時間)、コロレツCOP19/CMP9議長は、会議の閉会を告げて、木槌を下ろしました。会期は、22日(金)18時までの予定でしたから、丸一日以上延長したことになります。私は、23日(土)お昼過ぎにワルシャワを発ったので、会議の結末を現地で見ることはできませんでした。近年、気候変動COPは、会期を丸一日以上延長することが恒例のようになってしまっています。
写真1:強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)の自由協議会合への入場の順番待ちをしているNGO。各国が、(比較的)小さな部屋での協議を望み、それが実現したのですが、入場は各国政府関係者優先のため、NGOの入場が制限されました。同会合の傍聴を希望するNGOは、長い順番待ちをすることになりました。
22日(金)19時頃、既に合意ができていた部分の決定文の採択のため、COP19閉会会合が始まりました。そのとき、気候変動交渉の進捗の遅さに危機感を持つNGO が「Stop! Climate Madness!」とスタジアムの観客席で叫ぶ声が、全体会合会場に響き渡っていました(今回は、屋根で覆われたグラウンドに仮設の会議場が建てられています。観客席から叫ぶと、全体会合会場の天井(外側)に向かって叫ぶことになります)。この頃、これに参加していたNGOだけではなく、おそらく、会議に参加していた多くの人が、今回のCOPでは何も合意できないのではないかと危機感を持っていたのではないかと思います。
写真2:最終日、会場前での環境NGOによるパフォーマンス。今、「安全な気候」の世界か、あるいは、「台風、洪水、干ばつ」が頻発する世界か、このどちらに進んでいくかの岐路に立たされていることを案内板が示し、先進国に対して、気候変動対策の強化を訴えています。
COP19/CMP9の主な成果は、以下の4つです。
1) 2020年以降の各国の排出削減目標の提出について
2020年以降の国際枠組みについては、すべての国(先進国か途上国かを問わない)は、2020年以降の各国の削減目標について、国内での準備を開始・強化して、COP21(2015年、パリ(フランス)において開催予定)に十分先立って(可能ならば、2015年第1四半期までに)示すこと、そして、この目標等の案を示す際に提供する情報をCOP20(2015年、リマ(ペルー)において開催予定)で決めることについて合意がなされました。
2) 「気候変動の悪影響に伴う損失・被害(ロス&ダメージ)に関するワルシャワ国際メカニズム」の設置
「気候変動の悪影響に伴う損失・被害」とは、適応できる範囲を超えて発生する気候変動影響にどのように対処するかという問題です(21日のレポート参照:(https://www.jccca.org/cop/cop19/10-2))。
今回、「気候変動の悪影響に伴う損失・被害に関するワルシャワ国際メカニズム」が設置されました。具体的には、同メカニズムの運営組織、同メカニズムの機能の概要(データや優良事例等の知見の共有、国連を含む条約内外の関係機関との連携、資金・技術・能力構築含む活動と支援の強化)、COP22(2016年)での同メカニズムの見直し等について合意がなされました。
3) カンクン合意における資金動員目標達成のためのプロセスに関する合意
途上国における排出削減と気候変動影響への適応の支援のための資金動員について、より具体的な道筋が合意されました。これには、先進国に対し、2014年から2020年までの間に資金支援拡大のための戦略及びアプローチにつき、隔年での情報提供を行うこと等が含まれています。途上国は、先進国から2020年までに1000億米ドル(カンクン合意において合意された資金動員目標)が確実に拠出されるように、先進国が、中間目標を設定したり、緑の気候基金への拠出時期・金額を具体的に情報提供したりすべきだと主張しましたが、これらは盛り込まれませんでした。
ワルシャワ会合において、途上国支援のため、ノルウェー、英国、欧州連合(EU)、米国、韓国、日本、スウェーデン、ドイツ、フィンランドが近々公的資金の提供を行うことを発表しました。
緑の気候基金については、初期の指針に合意しました。これにより、同基金が運用段階に入ることが期待されます。
4) 「途上国における森林減少・森林劣化からの排出削減、森林の炭素蓄積の保全、森林の持続可能な管理、森林の炭素蓄積の強化活動(REDD+)に関するワルシャワ枠組み」への合意
世界全体の人為的二酸化炭素排出量の約2割は、森林減少・劣化によるものとされています。REDD+は、途上国が自国の森林を保全するための活動に対し、経済的な利益を国際社会が提供しようというものです。つまり、途上国が、“森林を伐採するよりも保全する方が得だ”と感じるような仕組みを作ることで、森林破壊と気候変動の両方を食い止めようとしているのです。
今回設置された、「REDD+に関するワルシャワ枠組み」によって、環境保全に配慮したREDD+の活動を実施する道が拓かれました。技術ガイダンス、資金、組織等、どのように支援するかの大枠について合意がなされました。なお、米国、ノルウェー、英国が同枠組みへの資金支援(2億8000万米ドル)を表明しています。
写真3:会議終盤、NGOが会場で配っていた、変革チョコ
閉会に際し、コロレツCOP19/CMP9議長は、「ワルシャワ会合は、各国政府に対し、来年、ペルーで開催されるCOP20で2015年合意(筆者注:2020年以降に実施される予定の気候変動対処のための国際枠組み)に関して議論するための道筋をつけた。これは、2015年にパリで最終合意に至るための非常に重要なステップである」と述べました。
フィゲレス気候変動枠組条約事務局長は、「私達は、非常に重要な進捗を実現することができた。しかし、私達がかつてない頻度の異常気象を目撃し、貧しくて脆弱な人々がそのコストの負担を強いられていることを、今、もう一度、はっきりと認識しよう。各国政府、特に先進国政府は、パリでの2015年合意に向けて、各国の計画を示せるよう、帰って宿題をしなければならない」と述べました。
写真4:会議初日、会場から見えた空
前回にも増して大変厳しい交渉が2週間続きました。今回の成果としては、2020年以降に実施される国際枠組みを採択することになっているCOP21(2015年、パリ(フランス)で開催予定)に向けて、各国の温室効果ガスの削減目標を出す一定のスケジュールが示されたことが挙げられます。
他方、特に2020年までに、地球全体で温室効果ガスの排出削減を具体的にどのように強化していくかについては、あまり進展が見られませんでした。18日のレポート(https://www.jccca.org/cop/cop19/07-2)で紹介した、現在、どの国際制度の下でも対策がとられていない強力な温室効果ガスである、HFCの対策については、新興国の強い反対に遭ったため、何の合意もできませんでした。また、気候変動枠組条約の「先進国」と「途上国」の硬直化した構造の弊害を改めて感じさせられた会合でした。気候変動交渉における新興国の存在感は以前にも増して大きくなっています。
COP19では、日本に大きな宿題が課されました。日本は、2005年比-3.8%という新しい2020年の削減目標を発表したばかりですが(併せて、この目標は、エネルギー政策が定まらない中、稼働原発をゼロと仮定した「暫定的」なものであるとの説明がなされています)、今後は、2020年以降の日本の排出削減目標の検討に移ることになります。2020年以降の目標を「COP21よりも時間的余裕を持った前の時期に提出し、可能であれば、その年の3月末までに提出」することが求められています。2020年以降の国際枠組みの構築に戦略的に貢献していくためにも、国内における迅速な検討が必要です。その際には、科学・技術的な根拠の積み上げのほか、プロセスの透明性を確保する必要があります。
気候変動問題は、「現代文明の運命に関わる問題」であり、「今生きているわれわれが現代文明の運命をどうしたいかという価値判断にかかわる問題」であるとの記述に接しました。
あなたは、今後、どのような世界に暮らしたいですか?その中で、気候変動問題をどのように考えますか?また、どのように関わりますか?
参考資料:
気候変動枠組条約事務局プレスリリース
http://unfccc.int/files/press/news_room/press_releases_and_advisories/application/pdf/131123_pr_closing_cop19.pdf
文・写真:久保田泉(国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員)