10月22日、英国ケンブリッジ大学インペリアル・カレッジ・ロンドンの教授で、「京都議定書の評価と意味」の主著者であるマイケル・グラブさん(写真右)が、環境NGO気候ネットワーク主催の講演会で京都議定書存続の重要性とボン合意の意味、そしてCOP7とその課題について話をしました。
1.京都議定書を生かすべき
180以上の国の人たちが京都議定書の成立、実施のためにすでに多大な時間、労力を投資してきています。また、議定書は、数値目標があり、それを達成していくというほかに代替案が考えられないほどすぐれた構造をもっているのです。
2.アメリカ抜ければ、他国の対策コストは下がる
例えば、1998年度の議定書の削減目標をもつ国の排出量と京都議定書の削減目標とのギャップを見た場合、特に、アメリカ、日本、EU、カナダなどは、達成が難しいと思うかもしれません。しかし、ロシアやウクライナをはじめとする中央東ヨーロッパの国々の排出量は1990年から経済状態悪化のため、議定書の削減目標よりも排出量が減っているのが現状です。この余剰分を京都議定書の 17条で認められている排出量取引を使って、EU、日本、カナダの削減必要分にあてれば、それらの国々の目標達成はさほど難しくないのがわかります。さて、アメリカが参加しないとどうなるでしょう。アメリカが必要な削減量が市場からなくなるため、需要が減り、かえって他の国の投資コストが安くつくと考えられます。
3.アメリカ抜きの京都議定書発効はアメリカの参加を促す
長期的には世界最大の排出国であるアメリカを巻き込むことは重要だと思います。京都議定書の枠外で、アメリカもいろいろやっているのです。京都議定書が発効し、アメリカ以外の国で、様々な対策が進み、国際的な排出量取引制度が本格的に動き出したら、アメリカは取り残されていると感じ、何とかしなければならないと考えはじめるでしょう。
4.アメリカが戻るきっかけはある
議定書発効の期日と考えられている2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)に戻ってくることはないでしょう。しかし、第1約束期間内に戻ることはあるかもしれません。というのは2003年に開催予定の第9回締約国会議(COP9)をロシアがホストするという話があります。ロシアがこの分野の大きな世界的な会議を開催するとなるとアメリカは何とかしようと考えるかもしれません。また、新政権成立すれば、あるいは、第2約束期間の交渉から参加するかもしれません。
とにかく発効したからといってすぐにアメリカが「間違っていた、謝るから参加させて欲しい。」ということはないでしょう。 アメリカが戻ってくる時期がいつになっても京都議定書がなくなってしまうよりはマシだということです。
ボン合意の成立はとても意味のあることです。アメリカ抜きの道すじを示すことができました。COP7ではこの合意の内容を運用可能なルールに翻訳する重要な仕事を完了させなければなりません。また、アメリカ抜きでも京都議定書を発効するためには、日本が重要な国であることは依然として変わりません。温暖化防止を考えるとまだまだ長い道のりですが、COP6再開会合前に比べると少し明るい未来が見えてきました。