2016年11月7日~18日まで、マラケシュ(モロッコ)において、気候変動枠組条約第22回締約国会議(COP22)などが開催されます。筆者は、5日の深夜にマラケシュに到着し、6日には、国立環境研究所の展示ブース設営のためにCOP22会場に行ってきました。その時の写真を交えつつ、明日からのCOP22をはじめとする会合でどんなことが話し合われるのかを解説します。
写真1:COP22会場前。真ん中の柱には、COP22のロゴが入っています。左手の赤い旗は、モロッコの国旗です。
1. パリ協定とはどんな国際合意か?:世界中の人が協力して描いた未来
今回どんなことを話し合うかを見る前に、パリ協定のおさらいをしておきましょう。
2016年11月4日は、世界中の人々にとって記念すべき日となりました。パリ協定が国際条約としての効力を持つようになったのです。11月6日時点で、100の国と地域がパリ協定を批准しています。気候変動枠組条約の締約国/地域は、196か国+1地域ですから、パリ協定採択からわずか1年足らずという短期間で、気候変動枠組条約締約国の半分以上の国と地域がパリ協定を批准したことになります(残念ながら、日本はまだです)。15日には、パリ協定発効のお祝いの式典も開催される予定です。
パリ協定とは、国際社会が長期的に温暖化問題に真摯に取り組む、すなわち、世界は化石燃料への依存から脱却していく、という産業界や市民社会に対する強いメッセージを含む、とても重要な国際条約です。
パリ協定のポイントは、以下の4つにまとめられます(図1)。
図1 パリ協定のポイント(出典:筆者作成)
(1) 長期目標の設定
パリ協定で最も重要な点のひとつは、国際条約の中で長期目標を設定していることです。「産業革命前からの地球平均気温上昇を、2℃よりも十分低く抑えること」がパリ協定の目的として掲げられています。さらに、気温上昇を1.5℃未満に抑えることも視野に入れて努力することになっています。
そして、排出削減については、「今世紀後半に、人為起源の温室効果ガス排出と(人為起源の)吸収量とのバランスを達成するよう、世界の排出ピークをできるだけ早期に迎え、最新の科学に従って急激に削減する」、つまり、人為起源の温室効果ガス排出を正味でゼロにすることを、適応については、「適応能力を拡充し、レジリエンス(温暖化した世界に合わせることができるしなやかさ)を強化し、脆弱性(温暖化影響に対する弱さ)を低減させる」ことを、それぞれ長期目標として設定しています。
(2) すべての国による長期目標の実現に向けた温暖化対策
これまでは、先進国と途上国との間で、義務的な温室効果ガス排出削減目標を持つか持たないか、もしくは、削減目標を絶対量で決めなければならないか、または、相対量の削減でもよいかについて、明確な差が設けられていました。
パリ協定では、先進国か途上国かは関係なく、すべての国が、長期目標の実現を目指して、自ら設定した目標の達成に向けて、温暖化対策を行っていくこととされています。
(3) 各国における温暖化対策の強化、資金・技術支援の強化
パリ協定のメンバーとなっているすべての国は、温暖化対策に関する目標を5年ごとに設定・提出し、その達成に向けて努力することになっています。この目標の設定及び条約事務局への提出と、自分で決めた目標の達成に向けた努力は、パリ協定を締結するすべての国の義務です。ただし、京都議定書とは異なり、目標の達成そのものは義務ではありません。そして、各国は、前の期よりも進展させた目標を提出することになっています。また、各国が行った温暖化対策に関する情報のまとめとチェック(モニタリング・報告・検証)についても、すべての国が共通の枠組みの下に実施することになっています。
加えて、これまでは、先進国だけが、途上国に対して温暖化対策に必要な資金や技術などの支援を行うことになっていましたが、パリ協定では、先進国に加えて、能力のある国も、これらの支援を行うことになりました。
(4) 国際社会全体で温暖化対策を着実に進めるための仕組み
国際社会全体で、パリ協定の目的や長期目標の達成のために必要な温暖化対策が進めることができているかを5年ごとにチェックしていくことになりました。この仕組みを、グローバル・ストックテイクと呼びます。第1回グローバル・ストックテイクは2023年に開催されることになっています。
また、先進国は、途上国に資金支援をする責任を持っていることが改めて規定されました。そして、その他の国(新興国を想定)に対しても途上国に資金を提供することが奨励されました。また、2020年以降、温暖化対策支援のための資金を世界中からどれくらい集める目標にするかに注目が集まっていましたが、当面は、年間1,000億ドルという現在の目標を維持することになりました。2025年までに、現在の目標を上回る新しい目標を決めることになっています。
写真2:COP21(2015年、パリ(フランス))で、パリ協定の採択を喜ぶファビウスCOP21議長(当時)ら。左から、トゥビアナCOP21特別代表(現・フランス気候変動交渉担当大使)、フィゲレス気候変動枠組条約事務局長(当時)、ファビウスCOP21議長(当時)。
(写真提供:(公財)地球環境戦略研究機関 田村堅太郎氏)
パリ協定は、世界全体の温暖化対策を転換させる、「歴史的な」国際条約だと評価されていますが、もちろん、課題もあります。最大の課題は、2020年まで、そして、2020年以降、世界全体の温暖化対策のレベルの引き上げをどのように実現させていくかです。現在、各国が提出している2025年/2030年の温暖化対策の目標がすべて達成されたとしても、パリ協定の目的にある2℃目標の達成にはほど遠いことがわかっているからです。
2. 今回、どんな会議が開かれるの?
報道では「COP22が始まります」などとひとまとめにして紹介されることが多いかも知れませんが、今回、マラケシュでは、6つの会議が開催されます。
図2 今回開催される会議の一覧(出典:筆者作成)
各会議には、それぞれの役割があります。
・COP
気候変動枠組条約に入っている国/地域の最高意思決定機関です。気候変動枠組条約がどのように実施されているかをチェックし、今後どうしていくかを話し合います。
・CMP
京都議定書に入っている国/地域の最高意思決定機関です。京都議定書がどのように実施されているかをチェックし、今後どうしていくかを話し合います。
・CMA
パリ協定に入っている国/地域の最高意思決定機関です。
日本は、まだパリ協定を締結していないので、今回はオブザーバー(会議を傍聴することはできるが、発言することはできない)として参加することになります。
・APA
パリ協定の詳細ルールをどのようなものにするかを話し合うために、臨時に設置された補助機関です。
・SBSTA
気候変動枠組条約等を実施するうえで問題となる、科学的・技術的な問題(例:途上国に対する技術移転の問題や、温室効果ガスの排出量をどのような形式で報告するかなど)について、COP等に助言します。気候変動枠組条約、京都議定書、パリ協定に共通する補助機関です。
・SBI
気候変動枠組条約等を実施するうえで問題となる、実施に関する問題(例:途上国に対する資金支援をどのように行うかなど)について、COP等に助言します。気候変動枠組条約、京都議定書、パリ協定に共通する補助機関です。
3. 今回は何について話し合われるの?
今回のポイントは、パリ協定の目的の実現に向けて、具体的にどのように制度を動かしていくのかについてのルール作りです。国際条約と比べると、細かいルールなので、「詳細ルール」とか「運用細則」などと呼びます。
パリ協定の採択は、世界全体の温暖化対策の転換点となる大きな成果ですが、その中身を見ると、今世紀末までに世界全体でどの水準を目指して温暖化対策をとるのかと、そのための制度の大枠を示しているだけです(繰り返しますが、これに合意できて、しかも国際条約としての効力を持つに至ったのはすごいことです)。
パリ協定に書かれていることだけでは、制度を動かすことはできません。制度を動かすための詳細ルールが必要です。そして、COP21では調整がつかずに、今後の交渉に委ねられたこともたくさんあります。つまり、世界中の人が願いを込めてパリ協定に描いた未来が実現できるかどうかは、パリ協定の詳細ルールをどのようなものにするかと、今後、各国がとっていく温暖化対策をいかにレベルアップさせていけるかにかかっているのです。
詳細ルールは、最終的には、パリ協定の最高意思決定機関である、CMAで採択する必要がありますが、今回ここまで進むことはありません。なぜなら、パリ協定の詳細ルール交渉は、今年5月に始まったばかりですが、議論しなければならないことはたくさんあるからです。
写真3:筆者の宿泊しているホテルの屋上テラスから見たCOP22会場(奥の方に見える白いテントのようなものがCOP22会場です)
明日から、会場内の様子や交渉の進み具合を紹介し、なぜあるポイントが問題になっているのかなどを解説していきます。マラケシュの街の様子なども紹介していく予定ですので、楽しみにしていて下さいね!
文・写真・図 久保田泉(国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員)