リマでは日に日に暑くなってきており、日中はかなりの日差しです。今回の会議場では、すべての建物に冷房が入っているわけではありません。コンタクト・グループ(筆者注:事務レベルの議題ごとの小会合)を開催する部屋がたくさんある建物では肌寒く、一方、全体会合の会議場や、各国パビリオン、各団体の展示ブースがある建物ではまるでサウナのようです。一番心地よく過ごせるのは、木陰です。
今日、会議場には、携帯電話用のソーラー充電器が登場していました。今回は、会期に入ってからも、会場に新しいものが登場することがたびたびあります。
写真1:携帯電話用のソーラー充電器を使う会議参加者
さて、今日は、リマ会合で初めて実施された、先進国の気候変動対策の多国間評価(Multilateral Assessment: MA)プロセスについて解説します。
写真2:MA会合の様子
MAプロセスは、カンクン合意(2010年)に基づく、先進国の気候変動対策の進捗状況に関する国際評価・レビュー(International Assessment and Review: IAR)プロセスの一部です。IARプロセスは、実施に関する補助機関(SBI)の下で実施され、カンクン合意の下で各国が掲げている2020年の温室効果ガスの排出削減目標の達成に向けて、各先進国の気候変動対策がどれだけ進んでいるかをよりよく比較できるようにすることを目指しています。
このMAプロセスについて、フィゲレス気候変動枠組条約事務局長は、「歴史的なイベント」と評していました。このプロセスはなぜ重要なのでしょうか。これを理解するためにも、交渉経緯の理解が必要なので、解説します。
2013年以降、国際社会は、カンクン合意の下で気候変動対策を進めています(京都議定書第2約束期間に参加している先進国(EU等)は、京都議定書の下、法的拘束力のある削減目標も持っています)。新たな国際枠組みを作る際には、その数年前に、その枠組みを作るために、いつまでに・どのようなことを議論するかを合意します。たとえば、来年、すべての国が参加する2020年以降の国際枠組みに関する合意をCOP21で採択することが目指されていますが、これは、2011年のCOP17(ダーバン(南アフリカにて開催)の合意に基づいて議論が進められています。カンクン合意についても、COP13(2007年、バリ島(インドネシア)にて開催)で採択された、バリ行動計画にそのもととなる内容を見ることができます。
バリ行動計画は、気候変動交渉の転換点のひとつとなる合意でした。それは、初めて、先進国だけでなく途上国も、温室効果ガスの排出削減の約束または行動を検討することが決定されたからです。バリ行動計画では、COP15(2009年)に向けて、気候変動の緩和に関する国内または国際レベルの行動の強化のために議論すべき事項として、1) すべての先進国による計測・報告・検証可能な緩和(筆者注:気候変動対策の文脈では、緩和とは、排出削減と吸収源の増強を意味します)の約束(排出抑制数値目標を含む)または行動(先進国間の取り組みを比較できるようにする)、2) 途上国による計測・報告・検証可能な方法で行われる適切な緩和の行動(Nationally Appropriate Mitigation Actions: NAMAs)、が挙げられています。
この「計測・報告・検証可能な」(Measurable, Reportable, Verifiable: MRV)というフレーズも重要です。現在は、「緩和行動のMRV(測定・報告・検証)」というように名詞のかたちで使われています。国際レベルのMRVについては、2009年のコペンハーゲン合意において、測定・報告の部分を成す隔年報告書の中身について合意し、そして、国別報告書及び隔年報告書を検証するため、先進国については国際評価・レビュー(IAR)プロセスが、途上国については国際協議・分析(International Consultations and Analysis: ICA)プロセスを設置し、このMRVが制度化されました。結局、コペンハーゲン合意は、一部の国の反対に遭い、COP15の正式な合意とはなりませんでした。翌年(2010年)、COP16(カンクン(メキシコ)にて開催)において、このMRVの制度化や、先進国の排出削減目標/途上国の排出削減行動の提出、緑の気候基金の設置等を含む内容の決定が採択されました。 IARには、2つの段階があります。第1段階は、各先進国の報告の技術レビューです。第2段階が、今回開催されている、各先進国の目標達成に向けた進捗状況の多国間評価、すなわちMAです。
IARは、今年1月に始まりました。まず、先進国が、第6回国別報告書(気候変動枠組条約で規定されているもの)と、附属書Ⅰ国の第1回隔年報告書(カンクン合意(2010年)によって提出を求められるもの)とを提出し、国際専門家レビューチームがこれら報告書の技術レビューを行います。
今回、MA会合が初めて開催され(今日(6日)と8日に開催)、17の先進国の2020年目標に向けての気候変動対策が評価を受けます。今回の対象国は、オーストリア、クロアチア、キプロス、デンマーク、EU、フィンランド、フランス、イタリア、ラトビア、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、米国です。他の附属書Ⅰ国(先進国)については、第42回実施に関する補助機関会合(SBI42)(来年6月、ボン(ドイツ)にて開催)及び第43回実施に関する補助機関会合(SBI43)(COP21(来年12月、パリ(フランス)にて開催)と並行開催)のどちらかでMAを受けることになります。
多国間評価(MA)には、以下の3つの段階があります。
・第1段階:多国間評価(MA)の準備段階
・第2段階:実施に関する補助機関会合(SBI)会期中のワーキング・グループ・セッションにおける国際評価
・第3段階:IAR締約国記録(筆者注:レビュー報告書、SBIの要約報告書、Q&Aの記録など)の完成
筆者は、MA会合の一部を傍聴しました。様々な国でとられている気候変動対策とその効果が紹介され、とても興味深かったです。筆者が傍聴していた間、すべての国の進捗状況の報告に対して、中国代表が質問を投げかけていたのが印象的でした。
写真3:先進国の2020年目標達成に向けての進捗状況の報告に対して質問を投げかける中国代表
ところで、4日、日本の環境省と(独)国立環境研究所は、2013年度の温室効果ガス排出量(速報値)が発表されました(図1)。発表によれば、2013 年度の日本の温室効果ガスの総排出量は、13 億 9,500 万トン(CO2換算)でした。これは、2012年度の総排出量と比べると+1.6%、2005 年度の総排出量(筆者注:現在の日本の2020年目標(2005年比-3.8%)の基準年排出量)と比べると+1.3%、1990 年度の総排出量(筆者注:気候変動枠組条約及び京都議定書の基準年排出量)と比べると、+10.6%(1 億 3,400万トン)に、それぞれ該当します。
なお、日本は、来年の6月か12月に、今日紹介したMA、すなわち、2020年の排出削減目標達成に向けての対策がどれだけ進んだかに関する評価を受けることになります。
図1:日本の温室効果ガス排出量(2013 年度速報値)
(出典:2013年度(平成25年度)の温室効果ガス排出量(速報値)<概要>)
今日の午後には、プルガル・ビダルCOP20/CMP10議長による、オブザーバー団体へのブリーフィングがありました。COP20/CMP10議長は、「とても良い雰囲気で交渉が進められている」と評したうえで、「各国が自主的に決定する約束草案(Intended Nationally Determined Contribution : INDC)(筆者注:現在の気候変動交渉のキーワードです。後日解説します)の要素を確定させることは、昨年のワルシャワ会合で決定された、リマ会合で必ず合意すべきことであり、今回の合意の鍵となる部分である」としました。会合終盤、参加者から、「リマ会合の最大の成果は何になるか」と問われたプルガル・ビダルCOP20/CMP10議長は、「来年のCOP21での議論の土台となる、合意案を作ることである。そのためには、拙速を避け、段階を踏んで、議論を進めていくことが重要。私達は、コペンハーゲンの失敗とカンクンの成功に学ぶべきだ」と発言しました。
写真4:オブザーバー団体へのブリーフィングに臨むプルガル・ビダルCOP20/CMP10議長
参考資料:
・環境省=(独)国立環境研究所プレスリリース.2013年度(平成25年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について(2014年12月4日)。2013年度(平成25年度)の温室効果ガス排出量(速報値)<概要>
http://www.nies.go.jp/whatsnew/2014/sokuhouchi_gaiyou.pdf (アクセス日:2014年12月7日)
・気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局の多国間評価(MA)に関するwebサイト
http://unfccc.int/national_reports/biennial_reports_and_iar/international_assessment_and_review/items/8451.php (英語) (アクセス日:2014年12月7日)
・畠中エルザ、伊藤洋(2011)地球環境豆知識18 測定・報告・検証(MRV).(独)国立環境研究所地球環境研究センターニュース2011年8月号 [Vol.22 No.5] 通巻第249号。
http://www.cger.nies.go.jp/cgernews/201108/249002.html (アクセス日:2014年12月7日)
文・写真:久保田 泉(国立環境研究所社会環境システム研究センター主任研究員)